クロスケが死んだ
今日で五日たった
クロスケが死んだ
ウソだと思ってみる
でも、クロスケはいない
一度も粗相をしたことがないのに
私が長期出張の時、長く帰らない主人のフトンにクソをした
あの猫が死んだ
動物の嫌いなひとは、たかが猫と言うだろう
でも我が家のアイドル、クロスケは
この七年間、まさしく我が家の長男だった
夫婦喧嘩をしても彼がいた
不良娘に頭を悩ましても、おっとりすました彼がいた
サッシ窓のロックを自分ではずして出て行く猫
大の字にふんぞり返って大いびきをかく猫
主人の顔を見ると、いそいそと走り寄ってくる猫
足にしがみついて離れない
「こいつは人間のつもりでいる」
テレビ局を呼ぼうかと家族六人で話しあいもした
六月十九日午前四時前、死体発見!
思いもかけない窒息死だった
犯人は黒猫! アイツだ!
一瞬、すべての時がカチカチと空白の中で停止した
体重六キロの重さが両手にしみる
涙がとまらない
七年はあまりに短い
パンダのようにまん丸く人懐こい目
あの目は人の心を理解していた
ビールのほろ酔いの中に夜のしじまが流れ去る
私の部屋を真夜中にノックするあの猫はもういない
自らの体重を持て余し匍匐前進
トコトコ階段をよじ登る姿はユーモラスな縫いぐるみだった
キラリとした生真面目さで鷹揚に振り返るつぶらな瞳
どこか田舎の好々爺を彷彿とさせるブチ猫、クロスケ
鼻の横の間抜けた黒い斑点と共に
お前のキャラクターを永遠に脳裏に焼き付けておこう
心許せぬ人間社会へのモニュメントとして
息を引き取る間際、鎖を引きずりながら
あの世へ旅立つその瞬間まで
お前は私と私の長女のことを考え、思い続けたにちがいない
声にならない声で
私たち親子を呼び続けたにちがいない
いつお前が階段を上がってくるのか
グラス片手にガラス戸の向こうをみつめていると
まっすぐ私を見据えたままでトコトコと
いまにもお前が歩いてきそうに思えるのだ
死の前夜、同窓会から帰ってきて
フトンの上でお前と長生きの約束をした
あれは虫の知らせだったのか
お前の墓に最後の土をかけたその時に
本当にその時に、
何も知らない娘からのベルが鳴ったのだった
彼の写真を十八日に壁に飾ったばかりだと、涙声
不思議な猫、クロスケ
人間みたいな猫、クロスケ
さようなら
(てっちゃんの詩集、クロスケの死)から
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